『オリオンの上』(有島希音)

人って、どうして生まれてくるのだろう……。
誰かを傷つけるために、生まれてくるのだろうか。

児童文学はどこまで絶望を描けるのか、人が生きることの意味(無意味)を明瞭に暴き立ててしまったこの作品は、その限界に挑戦した作品といえるかもしれません。
北海道北西部の町に暮らす中1女子麻由子の悩みは、父親の浮気でした。しかもその相手は幼なじみの男子の母親。近所の人々や学校の先生にもそのことを知られているという世間の狭さも、地獄感を高めます。麻由子は母と妹を連れて家出することで状況を打破しようと考えますが、なかなか実行に移せません。
中学生相応の比喩表現が多用されていて*1、麻由子の荒涼とした心象風景が痛々しく伝わってきます。
閉塞感・未来の見えなさ、出身が同じ北海道だからという短絡的な連想ですが、作中のべったりと重い空気は佐藤友哉作品と共通するものが感じられます。
作品のシンボルとなるのは、放置されている座礁船です。ただ朽ちていくためだけに存在している座礁船は、主人公や地域の姿そのものです。絶望的でありながらも崇高な美しさも漂わせるイメージを作り上げたことが、この作品の一番の成果です。

*1:(星よ、私に墜ちてこい。幾千の矢となって、私をつきとおせ)などといった中二入りすぎのやつもありますが、それもまた痛切です。