『おてんばヨリーとひげおじさん』(アニー・M.G.シュミット/作 フィープ・ヴェステンドルプ/絵)

オランダを代表する児童文学作家の1990年の作品の邦訳が登場。今日は新しい特急列車を出発させる日。運輸大臣環境大臣や、名前が難しくて誰も覚えられない外国の大統領も乗りこむ記念列車として華々しく出発することになっていました。車掌のひげおじさんにとっても特別な一日になるはずでした。とろこが、絶対に遅らせることのできない出発直前にハリネズミ救出のボランティア活動をしているヨリーという少女が列車の下に入りこみ、ハリネズミを何匹も引きずり出します。発車が遅れたためひげおじさんは追い出されてしまい、仕方なくヨリーと一緒にハリネズミを安全な場所に連れていきます。そしてあろうことかハリネズミに紛れた爆弾を発見。列車が爆弾テロに狙われていたことが発覚します。ひげおじさんとヨリーは危機を知らせるために列車を追います。
まさかこんなゆるい装いの本で爆弾テロの話になるとは……。とはいっても、話はゆるくユーモラスに進みます。仕事はクビになるであろうことがほぼ確定しながらも奮闘するひげおじさんの姿は、かわいそうながらも笑えます。それ以上に光っているのは、列車のなかにいる女性たちの活躍です。
運輸大臣環境大臣は両方とも女性で、運輸大臣はバリバリの開発派で環境大臣はお花畑脳というキャラづけがなされていて、いつもケンカをしています。それでいながら、記念列車が失敗して落ちこんでいる運輸大臣を慰めるために環境大臣が花かんむりをあげるという仲のよさも見せつけてくれます。
もうひとり活躍する女性は、ヨリーのおばさんのマップスおばさん。食堂車の責任者として誇りをもって職務に取り組んでいます。そんななか、なぜか列車から逃げ降りようとする怪しい男を発見。マップスおばさんが善意から男の脱出を阻止し、男が絶望してしまうというのが天丼のギャグになります。
結末は、幸福感にあふれています。ユーモア児童文学として満点の作品でした。