『鬼ばばの島』(今井恭子)

大海原のどまん中、まめつぶほどの小島にひとりで暮らす鬼ばばの物語。その島は鬼ばばがあぐらをかくとつぶれそうなほどの小さな島で、鬼ばばはそこでの生活を守るのに精一杯。そのためお父は食い殺していて、お父を殺してまで育てていた息子も海の向こうにぶん投げていました。そんな島に流れ着いた他者との邂逅が4編収められた短編集です。
これは非常に日本の創作民話らしい作品です。この作品が半世紀前に刊行されていたなら井上洋介が挿画を担当していたようなタイプの、生存闘争と情念の物語です。

「かまわんとならんもんが、おらんのはええ。いつくたばってもええ」

このような島に流れ着くものは、世間から見放された弱者ばかりです。さすがの鬼ばばも同情心がわいてしまい、世話をしようとしますが、なかなかうまくはいきません。
なかでも悲惨だったのが、姥捨て山感覚で流されてきた老婆とのエピソードです。老婆は死にきれなかったときのためによめっこから毒の入ったとっくりまで持たされていました。すっかり死ぬ気でいる老婆は鬼ばばに自分を食べるよう促し、鬼ばばがためらうと「おまえも鬼なら、鬼らしゅうせい。なさけかけるは禁物じゃ。まだまだ肝っ玉がすわっとらん」と説教をくらわしてきます。このふたりの結末は……、うん、日本の児童文学ってそうだよね。