『ミョンヘ』(キム ソヨン)

1910年代を舞台とした韓国の児童文学。この作品の空気は、第1章の冒頭ですぐにわかります。主人公は良家の娘ミョンヘ。冬の日に輿に乗っていとこの結婚式に赴く場面から、物語は始まります。ゆれる輿がもたらす吐き気と、冬の寒さ。14歳のミョンヘももうすぐ嫁に行かなければならないと品定めをされます。この時代の女子は結婚によって人生が終わる運命にあるのだということがわからされます。苛烈な性差別と侵略者の存在が重くのしかかってくる時代の物語です。
ミョンヘは比較的恵まれた境遇に生まれある程度の教育を受けているため、かえってこの世が地獄であることが明瞭に見えてしまうという不幸を抱えています。そんな彼女は京城の女学校に通う猶予期間を得て、やがて医者になるという夢をみつけていきます。
仲村修の解説は、この作品は主人公の人生の各場面を切りとった「スケッチ」であるとしています。盛り上がる場面ばかりが切りとられているので朝ドラのダイジェスト版のようになっており、読者の感情に訴えかける力はかなり強いです。