『推しトモ!』(吉田桃子)

すごいなあ、推し活って、なんだかバウムクーヘンみたいにぐるぐるぐるぐる……どんどんぶ厚くなっていく。

「好きなもの」がなく友だちもゼロなキリちゃんは、中学デビューに失敗して暗黒の日々を過ごしていました。そんなある日、偶然Sジェニというインディーズアイドルのゲリラライブを見て、一瞬で魅了されてしまいます。そして、友だちもできました。全身真っ赤の奇抜なファッションをしたスウと名乗るやたら押しの強い女子とライブの場で知り合い、ふたりで推し活をするようになります。
『夜明けをつれてくる犬』で証明されているとおり、孤独感や疎外感をシリアスに描こうと思えばヒリヒリとしたものに仕上げる力量を、吉田桃子は持っています。でもこの作品はギャグ寄りで、たったひとつの出会いで世界が一気にひらけていく喜びを序盤から堪能させてもらえます。
作中で訪れる試練はみんな推し活に結びついていて、作品世界はかなりかっちりと作りこまれている感じがします。オタクであることがばれるとクラスのイケてる女子集団から(いま以上に)蔑まれるだろうという恐怖とか、迷惑なファンの存在とか、転売屋とか。キリちゃんやスウは子どもなので、推し活に重課金することはできないという悩みもあります。そこを、主に百円ショップを利用して応援グッズやコーデを手作りし、微課金でも充実した推し活を工夫する様子などは、とても生き生きとしていてよいです。
大人の目線で見ると、子どもが趣味に入れこみすぎることや子どもだけでライブに行かせることは、心配ではあります。しかしこの作品では推し活で起こりうるトラブルのシミュレーションがきちんとなされているので、これを読んで予習させておけばある程度安心できるかなとも思えます。変な話、保護者対策も万全です。
作品の主題は推し活と推しトモ。ただしタイトルにあるのは推しトモのほうなので、どちらかというキリちゃんとスウの関係性に比重が置かれています。勘違いやすれ違いを乗り越えながら絆を深めていくふたりの様子は笑えて楽しく、秀逸なラブコメのようになっています。