『よみがえれ、マンモス!  近畿大学マンモス復活プロジェクト』(令丈ヒロ子)

シベリアでいい状態のマンモスを発掘し、その細胞から取り出した細胞核をメスのゾウの卵子に移植すれば、マンモスを復活させることができる! 体外受精研究の先駆者の入谷明の着想から始まった近畿大学マンモス復活プロジェクトをテーマとした科学ノンフィクションです。
1996年に始まり、YUKAが発見され念願の細胞を手に入れるまで17年もかかったという気長なプロジェクトですが、令丈ヒロ子が拾うエピソードが楽しく、すらすらと読み進めていきます。巨大な蚊に悩まされ故郷に残した猫のことを考えながら過酷な発掘作業に取り組む研究者、コンビニのおつまみコーナーでみつけたビーフジャーキーをヒントにマンモスの筋肉組織から細胞核を取り出す方法を模索する研究者。地道さや意外性が、研究の世界を身近なものに感じさせてくれます。
令丈ヒロ子のクレバーさがもっともあらわれているのは、情報の交通整理のうまさです。このプロジェクトはまだまだ途上で、マンモス復活までの道のりは果てしなく遠いです。また、近大のプロジェクトチームのメンバーがいかに優秀でも、その面々だけで研究を完成させることはできません。そんな複雑な状況ですが、令丈ヒロ子の筆は現時点での課題を技術面・倫理面の両面からわかりやすく洗い出し、どのような技術が発展すればマンモス復活の道が拓けるのかという展望を明らかにしていきます。世界のどこかでiPS細胞や人工子宮の実用化がなされたらロングパスでマンモス復活の可能性が高まるという道筋には、ロマンがあります。
むしろ途上であることによって、自然科学を発展させるという人類の営みの偉大さは力強く意識されます。そこを的確に描いたことが、この作品の最大の成果です。