「女の子たちのぼうけん」全3巻

「女の子たちのぼうけん」をテーマにしたアンソロジー。特におもしろかった作品をいくつか紹介します。

山本悦子「わたしのゼリーを返しなさい!」

全3巻の中でわたしが一番好きなのはこの作品。メガネを修理するために遅刻して学校にやってくるというささやかな逸脱を導入として、学校という日常空間が不思議な空間に変貌します。主人公のメイは「給食わらし」に奪われたゼリーを取り返すため駆け回ります。廊下が丸太の一本橋になったり、木のうろがすべり台になったりといった、子どもの目線にあったギミックが楽しいです。「ぼうけん」というテーマにもっとも実直に応えていた作品はこれなのではないでしょうか。

令丈ヒロ子「カラフルでキラキラな気持ち」

令丈ヒロ子×結布といえば、『メニメニハート』や「いちごジャムが好き。」で知られる黄金コンビです。
他人の「気持ちの色」を見ることができる特殊能力を持った初花が主人公。この能力のせいで、小学生ながらすっかり人間不信になっています。そんな初花は、本屋で自分と同じ能力を持ったまり絵さんというおばあさんと出会います。
こうなるとまり絵さんにハンディキャップを抱えた人生の導き手になってもらうことを期待したいところですが、そうすんなりとはいきません。ふたりをお互いに煽りあうタイプのなかよしにして、コメディタッチで物語を進めていくのが令丈ヒロ子らしいです。それでいて最後には、「カラフルでキラキラな」メロンソーダでほんわかと締めてくれます。

鳥野美知子「桜色の遊園地」

母親から遊園地のチケットを2枚もらった奈菜は、ひとりで遊園地に行くことを決意します。奈菜の目当てはヒーローショーだけど、それに興味を持つような友だちはいないから。ヒーローショーを満喫した奈菜は、ショーに出演していたウサギの着ぐるみになぜか拉致され、ウサギの中の人になるよう強要されます。
ぼっち行動や職業体験は小学生にとってはレアな体験。その新鮮さが輝くさわやかな作品です。

蓼内明子「妹を乗せて」

まだ著作数は少ないものの、『魔女ラグになれた夏』『ブレーメン通りのふたご』で姉妹の物語が得意であるという印象の強い蓼内明子、ここでも姉妹の物語を出してきました。ただし、妹はパパが作ったアンドロイド。まだ発展途上なのでできることは質問ばかりで、感情らしい感情はありません。
ラスト1行で「いつも強くてカッコいい女の子」というテーマを直截に表す構成が憎いです。