『ぼくたちのスープ運動』(ベン・デイヴィス)

イギリスの社会運動児童文学。都会から田舎に引っ越してきた少年ジョーダンは、あるきっかけでホームレスにスープを差し入れする活動を始めます。インフルエンサーを目指す姉のアビがその模様を拡散したことから、善意の輪とホームレスを排除しようとする勢力の戦いがどんどん拡大していきます。
ジョーダンには入院経験がありました。アベンジャーズごっこをするなら「ぼくはハルク? ぼくも放射線をいっぱい浴びているからね」というブラックジョークをいえるくらいの深刻な病気で。そこで出会ったリオという少女からユダヤ教の『ミツヴァー』という善行について教わり、それがジョーダンの行動の原動力になります。
過酷な闘病生活でジョーダンはPTSDのようになります。ジョーダンがはじめに知りあったホームレスのハリーは、イラクで戦っていた傷痍軍人でした。彼もPTSDで悩まされています。体にも心にも深刻な傷を負った者たちの連帯から、物語は動き出します。
ただ、そういうキャラクターばかりだと話が重くなる一方なので、にぎやかし要員も配置されています。姉のアビはただの目立ちたがりでバズを狙っているのかと思いきや、「警察権力」などという用語を使いこなす根っからの活動家タイプで、誰が相手でも臆することなくノリノリで暴れ回ります。
ジョーダンが通う学校の校長も活動家くずれのようで、「権力に立ち向かうんだ。若者よ。権力にあらがうんだ」と煽り、なにかと手助けをしてくれます。しかし、日本の児童文学だとこのポジションは『兎の眼』の足立先生のようなアウトロー平教員が担いそうなものですが、これが校長だというのは国柄の違いのようで興味深いです。
終盤は、布石をうまく使い読者の涙腺を何度も決壊させようとしてきます。この連続攻撃は、さすがにやりすぎ感もあります。が、理性ではそう思っていても、まんまと泣かされてしまいます。
善意が世界を救うというおとぎ話ではありますが、そういうおとぎ話にこそ現実を変える力があるのだと思わせてくれる良作でした。