『空から見える、あの子の心』(シェリー・ピアソル)

はぐれ者のエイプリルは、同級生との関わりを避けるために下級生の世話をする『友だちベンチ』係に志願しました。エイプリルが気になっているのは、エイプリルよりさらに変わり者のジョーイ。あるときエイプリルは、ジョーイの謎行動が地面に巨大な絵を描く活動であったことを知ります。ジョーイの隠された才能が見つかってしまったことから、騒動が巻き起こります。
芸術は鑑賞者のためにあるのではありません。第一義的には、それを作成する芸術家本人のためにあるのです。ですから芸術家のなかには、発表することや発見されることにほとんど興味のない者もいます。ジョーイはそのタイプの芸術家でした。
ジョーイが地面にうずまきを描くと、排水溝に流すように自分のいやな気持ちを処理する作用をもたらします。日本の児童文学では、杉みき子が短編「地平線までのうずまき」で地面にうずまきを描く女子を登場させていました。こちらでは、うずまきが広がっていくさまが心を自由に解放していくという、ジョーイのものとは対照的な作用となっています。芸術はまず芸術家の心になんらかの作用をもたらすものであるという、芸術の偉大な本質のひとつの側面が描かれているのが、この作品の特徴です。
ただし、芸術が見つかってしまった以上は、世間との関わりが生まれ軋轢も生まれてしまいます。それが、物語とジョーイたちの運命を動かしていきます。