『SNS100物語 赤い望み』(にかいどう青)

SNSで百物語を完成させると願いを叶えることができるという噂が流れている世界を舞台にしたホラー「SNS100物語」の第2弾。中学2年生のユウの親友のトールが失踪してしまいます。なぜかユウのリュックに入っていたトールのスマホをのぞくと、ユウの知らないメンバーとSNSのグループで百物語をしていたことがわかりました。ユウは語られた百物語を読みつつ、他のメンバーと接触を図り、事件の真相を探ろうとします。
サービス精神旺盛なにかいどう青は、前作とはガラリと趣向を変えてもてなしてくれました。まず大きな違いは、闇百合から闇BLになったことです。物語の冒頭、ユウはトールのスマホをみるためにいろいろなパスコードを試しますが、結局正解はユウの誕生日でした。ここで読者は、さっそくヒエッとさせられます。
そして、前作が第1話から順番に語って百物語を完成させるというオーソドックスなつくりだったのに対し、こちらは百物語がほぼ完成している時点から遡って百物語を読むという転倒もなされています。
実はこの作品、犯人と被害者・犯行の方法とその目的(SNS百物語の願いを使うこと・その願いの内容)は、早い段階で察しがつくようになっています。にかいどう青の作風を知る読者であれば、10ページの時点でほぼ全容の予想はつきます。そうでなくても、99ページで犯人の願いは確信できるでしょう。ということでこの作品は、倒叙ミステリのように読むこともできます。
あわれな被害者はにかいどう作品には珍しい裏表のない善人で、犯人の悪意に全然気づきません。読者は被害者に対し、「ほら、そこそこ、早く気づいて~早く逃げて~」とつっこみを入れつつ、ホラーコメディとして楽しみながら読み進めていけます。
それでいて、語られている怪談の怖さは前作と同じく一流です。特に、心霊系よりもそのあたりにいる人の奇行系のやつが、不条理度と危険度が高くおそろしいです。たとえばこんなの。

街を歩いていたら、知らないひとに声をかけられてびっくりしたことがある。
目がすごくキレイだから、交換してほしい、って言うんだ。

うちの近所に、ちょっと変なばあちゃんがいる。
キレイに花が咲いている家を見ると、勝手に庭に入って、ハサミで花を切り落としちゃうんだ。
なんで、そんなことをするのかはわからない。
ふだんは温厚なんだけど、ハサミ持ってるときに声をかけるとキレる。
ハサミの先で目を刺されそうになった子どももいる。
花を切り落とすときは、いつも「甘いのね、かわいいね。」って笑ってる。

枠外の話で一番怖いところは、ユウがファストフード店で百物語メンバーと顔を合わせる場面です。ポテトを食べる「くちゃくちゃくちゃ」という擬音を強調して違和感を与え、そこから狂気をエスカレートさせる流れ、にかいどう青の語り芸の真骨頂という感じがします。
ところで、「SNS100物語」がシリーズ化してしまったので、タイトルが「青い××」になったらどんなおそろしいことが起きてしまうのかということが気になってきますね。