『うみべの おはなし3にんぐみ』(ジェイムズ・マーシャル)

海辺で遊んでいたローリー・サム・スパイダーの3人組が、順番に自作のお話を語りあうという内容の絵童話です。
はじめのローリーのお話は、ねこと犬を見たねずみが「あ、ねこと犬だ」と言い、逆にねこと犬が「あ、ねずみだ」と言っただけで終わります。大人の文学オタクであればここから無理矢理寓意を読み取ることもできなくはないですが、率直にいってまったくおもしろくないです。ところが、2番目のサムのお話からどんどんクオリティが上がってきます。
サムのお話は、ねずみとねこという登場キャラは共通しています。しかし、ねずみがペットショップでねこに一目惚れして購入するという導入が一気に読者を引きこみます。店主も若干引き気味で「え? ほんとに ねこが ほしいんですか?」と確認しますが、世間知らずらしいねずみはそれに頓着せず購入を決定します。
当然読者は、ある予想をしながら今後の展開を見守ることになります。で、ねずみとねこの絶妙な問答が、自分の予想が当たるのかどうかドキドキワクワクしている読者をもてなしてくれます。ふたりの距離を縮めようとトークをするねずみは、「ねこさんのこうぶつは、なんです?」と、核心に迫る質問をしてしまいます。「ちょっといいにくいですね。」と言うねこは、なぜか「ふたりっきりになれる ばしょ」にねずみを誘います。どんどん盛り上がっていきますね。
イラストも、いい仕事をしています。横目でねずみを眺めるねこのいやらしい目つき、さりげなくねずみの肩に手をかける仕草。サムのお話は、読者の期待感を煽ることに特化したうまさをみせてくれます。しかし、お話が終わったあとスパイダーがオチの弱さを批評したとおり、弱点もありました。そして、海から現れたかいじゅうが進撃するという最後のスパイダーのお話が、それを克服してみごとにトリの役目を果たしてくれます。
シンプルにおもしろい、良質な絵童話です。また、お話をつくるという遊びの指南書としても優れています。