『星屑すぴりっと』(林けんじろう)

著者のデビュー作である第17回ジュニア冒険小説大賞受賞作『ろくぶんの、ナナ』に続いて、第62回講談社児童文学新人賞佳作受賞作が刊行されました。複数の公募新人賞を同時受賞してデビューする児童文学作家はレアであるように思われます。しかも、この回の講談社児童文学新人賞の選考委員に同じ経歴を持つ如月かずさがいたとなれば、運命を感じるなというほうが無理というものです。
『星屑すぴりっと』も、『ろくぶんの、ナナ』と同様新人離れした落ち着きがみられる作品でした。主人公は尾道に住む少年イルキ。彼には、幼いころからせいちゃんという10歳年上のいとこを慕っていました。しかし、せいちゃんは多発性硬化症という難病を患い、以前とは全く違う無口で無気力な性格になってしまいます。そんなせいちゃんが珍しく「映画が、みたい、のう」と望みを口にします。イルキは友人のハジメとともに、タイトルもわからず入手も困難であるらしい映画を探そうと奔走します。
映画がテーマの作品なので、もちろん尾道という土地は強い意味を持ちます。また、イルキと大阪からの転校生であるハジメの方言でのやりとりにも味があります。地域性をうまく使っています。
物語は、人の多面性を描いていきます。冒頭で語られる、イルキとせいちゃんの思い出がまず読ませます。親戚の集まりで子どもたちがゲームをしている場面でも戦況に関わらずひとりだけのほほんとしているせいちゃんのことを、イルキは偽善者だと苦手に思っていました。しかし、アリを踏まないようによろけたせいちゃんと語り合ったことをきっかけに、せいちゃんへの評価は変わります。とはいえ、そんな人格者であるせいちゃんも、過酷な闘病生活のなかで別の顔をみせるようになります。
毒舌で頭の回るハジメも、内には友人にもなかなかみせられない激しいものを隠していました。また、あまり素行のよくない同級生のユーヤも意外な一面をみせ、作中で重要な活躍をしてくれます。
作中作の映画は、ヤンキーと箱入り娘の荒唐無稽なラブコメでした。箱入り娘の魂が14インチブラウン管テレビに閉じこめられるというトンデモ導入から、ドタバタが始まります。箱入り娘はテレビに入ったことを、むしろ「自由になれた」と喜びます。テレビに入るとは、虚構になるということにほかなりません。このような突飛なことはなくとも、人は虚構とともに生きていますから、この作中作(および本編)は、虚構とうまくつきあいながら生きる人間の姿を描いているともいえそうです。