『闇の魔法学校 死のエデュケーション』(ナオミ・ノヴィク)

生徒の卒業までの生存率が25%という治安最悪の魔法学校を舞台にしたサバイバルファンタジーです。
まず注目すべきなのは、トンキチ極悪設定です。若い魔法使いは怪物にとって美味な餌なので、食い殺されることなく成人できる魔法使いは20人にひとりだというのが、前提となる設定です。舞台となるスコロマンス魔法学校は、若い魔法使いを怪物から守るために虚空(?)のなかに造られました。しかしここでも外界と学校との接点からガードを破って侵入してくる怪物がいるため、多くの生徒が死んでしまいます。それでも外の世界にいるよりはかなりマシだというのが意地の悪いところです。生徒の卒業式の場である卒業ゲートには大量の怪物が待ち構えているので、生き残った生徒もここで最大の試練を迎えます。卒業までに有用な魔法を習得し力を蓄えチームを組む仲間を集めることが、生徒たちの大きな課題です。この根本の設定から広がって、怪物から生徒の命を救う英雄が現れるとバランスが崩れてかえって大きな危機を招くとか、主人公がせっせと腕立て伏せに励むとか、非道で笑える事態が派生していきます。
そんななかで活躍するわれらが主人公は、大量破壊魔法を得意とする嫌われ者の美少女エル。後ろ盾もなく友だちもいない彼女にとっては、卒業のための仲間を集めることすら無理ゲーで、窮地に立たされています。そんな彼女に、怪物から多くの生徒を救ってきた英雄のオリオンがなぜか絡んできたことから、騒動が起こります。
エルの認識する自己像は、冷酷で狡猾な一匹狼のダーク系主人公です、でも実際は、ピンチに陥っている子を見ると放っておけないような善性を持っています。そのギャップが彼女の魅力です。
一方のオリオンは、人気者であるがゆえの他人には理解されにくい孤独を抱えていました。エルとオリオンの孤独が響きあって仲が深まっていく様子がほほえましいです。オリオンのキャラ格はどんどん落ちて、やがておもらししちゃうからおむつをしていなくてはならない赤ちゃん扱いされるようになってしまいます。
人命は軽い世界ですが、物語の軸は王道のほのぼのラブコメです。膨大な設定説明を読みこむのに少し苦労しますが、そこを乗り越えると上質のエンタメとして楽しむことができます。