『闇の覚醒 死のエデュケーション Lesson 2』(ナオミ・ノヴィク)

生存率25%の超危険な魔法学校を舞台にした学園ラブコメトルファンジー、スコロマンスシリーズの第2巻。主人公のエルは最終学年の4年生に進級。半数の生徒が命を落とす卒業の日に向け、残酷なカウントダウンがはじまります。
英雄オリオンとの仲は順調に進展し、周囲からは完全に公認カップル扱いされていますが、エルは往生際悪く否定しています。友人のアアディヤからは「付き合ってないけどまわりからは付き合ってるようにしか見えない時期を付き合ってるって言葉以外でどう呼ぶのかはわからないけど」と皮肉を言われる始末。生育環境の違いやエルの母親の不吉な助言などエルとオリオンの未来には不安要素しかありませんが、なんとしても幸せになってもらいたいものです。
物語の冒頭、エルは無防備な新1年生が怪物に狙われそうになる場面に出くわします。もちろんエルは、助ける義理もない新入生を助けるようなお人好しの愚か者がこの学校にいるわけないと内心でつぶやきます。でも結局は、読者の期待通りの行動をしてしまいます。さて、例年卒業の日には半数の生徒が怪物に殺されるのに、全員を生還させようなんていう非現実的なプランを考えるお人好しの愚か者なんて、まさかこの学校にいるわけがありませんよね。
生徒の多数が悲惨な死に方をする環境ですが、学園ものとしての楽しさは保証されています。1巻の音楽劇めいたラストバトルなんかは、学園祭、あるいは卒業生を送る会の有志企画のようでした。今回の卒業に向けたプロジェクトも、学園祭前夜の喧噪がずっと続いているような趣がありました。最近の日本の作品で例えるなら、『水星の魔女』の生徒だけで会社を立ち上げる活動のような青春感を、この作品でも味わわせてもらえます。
この作品の裏の主人公は、スコロマンス魔法学校そのものです。学校の秩序を破った者に対するいやがらせのように、スコロマンスはエルに鬼スケジュールの時間割を与えます。エルの評価によると、スコロマンスは「無慈悲」で「不公平」で「どこまでも公平」*1なのだそうです。また、学校が生徒の努力と幻想によって成り立っているという設定も示唆的です。大人の教職員が存在せず学校自体が意思を持って生徒に対応しているような設定は、学校というものを抽象化しその役割を検証するための装置としても機能しているのかもしれません。

*1:p501