『紫禁城の秘密のともだち 一 神獣たちのふしぎな力』(常怡)

2015年に発表された、現代中国のエンタメ児童文学の邦訳が登場しました。主人公の小雨は、小学四年生の女子。母親が紫禁城で働いているので、放課後はいつもそこで遊んでいました。ある日紫禁城で不思議なイヤリングを拾います。それをつけると、神獣や動物たちと会話できるようになりました。いつもねこ缶をあげている白ねこの梨花がパパラッチならぬパパニャッチとして「紫禁城神獣タイムス」という新聞を作成していることがわかり、梨花を仲立ちとしてたくさんの神獣たちと知りあうことになります。小雨の紫禁城ライフはますます充実していきます。
観光地である程度自由に行動することができる子どもが主人公であるという出発点の設定がまず魅力的ですし、そこに愉快な異形たちまで絡んでくるのですから、おもしろくならないはずがありません。
作品は怪奇寄りではなく、どちらかというとゆるめの半異界生活をエンジョイさせてくれます。たとえば印象に残った神獣は、龍に姿がそっくりな斗牛。龍はやりたくない仕事があると仮病を使ったりするので、有名なお話に出てくる龍は実は斗牛が代役をしていたものが多いという、脱力のエピソードが明かされます。龍の代わりをするためいつも忙しくしている斗牛の姿は中間管理職のような悲哀を感じさせ、かわいそうだけど笑えます。そんな斗牛が、北京動物園にかわいいパンダを見物に行きたいがために強硬に龍に談判して休暇を勝ち取ります。念願のパンダを見て、「清王朝のころ、はじめてこの動物を見たとき、ワシはふしぎな気持ちになったのだ。こんなにかわいくて不器用な生き物がこれまでどうやって生きてこられたのだろうとね」と語る斗牛、こやつには幸せになってもらいたい……。
中国の子どもや神獣たちが同時代を生きているということを感じさせてくれるのも、この作品の特色です。雷属性の神獣の行什は、『マイティ・ソー』を見て自分は宇宙人であるという妄想を持ったりします。それも、きちんと山海経の記述を参照した上なのですから、手が込んでいます。現代と神話・昔話・歴史の接続がうまい具合にゆるやかになされています。
小雨が紫禁城の深層部に足を踏み入れる最後のちょっと怖いエピソードでは、小雨が勇気を奮い立たせるためにあの歌を歌ったことに驚かされました。