『世界一まずいクッキーのひみつ』(石井睦美)

ミサトの住む町に、「世界一まずいクッキーの店 マジョラン」というクッキー屋ができました。奇妙な店名と正反対によい評判が流れますが、ミサトが店に出向くと、店主のマジョランさんから毒ではないかと疑われるほど本当にまずいクッキーをふるまわれます。マジョランさんはミサトに孫娘のマジョルカを紹介し、ふたりを不思議な世界にいざないます。
この作品のよさは、その異世界の魅力が担っています。魔女のスカートが異世界の入り口になるというのがユニークです。本の小口を見ると、真ん中あたりのページがオレンジ色に染まっていることがわかります。この異世界は夕やけの世界で、ミサトとマジョルカは天馬に乗ってささやかな冒険をします。美しくも切ない風景のなかでふたりが覚える感情は「心がぶわっとする」と表現されます。この表現が秀逸です。
ただ、あまりにもすべてがお膳立てされている感があるところに少し不気味さがあります。料理店で客への注文が多いのはまあああいうことになりますし、それが魔女とのなにかとなると、さらに不安になってきます。表面上はとても優しいお話ですが、なにか裏がありそうな……。