『怖い物件 安在不動産のワケあり物件』(藤白圭)

「意味が分かると怖い話」シリーズで人気の藤白圭による連作ホラーショートショート集。住んでたアパートの改築で転居を余儀なくなされた保智という男が、安在という恵比須顔の不動産屋に数々の物件を紹介されるというストーリーです。保智の条件は勤務先の新宿まで電車一本で駅から徒歩十分以内家賃四万円以内という厳しいものだったので、紹介される物件は必然的に、見えないはずのものが見えたり目立たないところに大量のお札が貼ってあったりするタイプの事故物件ばかりになります。
物件ホラーとしての怖さは甘口です。ただし、この作品の怖さは、慣れてしまうことの恐ろしさを描いている点にあります。事故物件を紹介されることに慣れた保智は、「その安さ、間違いなく事故物件じゃないかーいっ!」とノリノリでツッコミを入れるようになります。そしてだんだん現実を受け入れ、家賃面の条件も緩和し、共存できそうな怪異には目をつぶろうという方向に考えを変えていきます。
終盤、保智の物件探しが落ち着くと、日向という女に主人公が交代します。この段階になると事故物件であることは当然の前提になり、人間関係(?)を築けそうな怪異のいる物件を選ぶことが課題になってきます。
生活をして生きていく以上、衣食住のどれにおいてもどこかで妥協をしなければならないというのは、逃れることのできない現実です。しかし、妥協する過程のどこかで人は正気を失っている可能性があるのではないかということを考えさせられます。5分シリーズの対象年齢の読者に見せつけるには、ある意味世知辛い現実を描いている作品です。
しかし、どんな怪異よりも一番怖いのは都内の家賃の高さではなかろうか。