『いつか空の下で さくら小ヒカリ新聞』(堀直子)

小学四年生に進級したあすかの悩みは、どのクラブ活動を選択するかということでした。あすかが通うさくら小の新聞クラブは強豪で美人のクラブ長への憧れもあって入りたいと思っていましたが、入部試験の記事作成がなかなかできなくてぼけーっとしているうちに入部の機会を失ってしまいます。そんなとき、近所にある養鶏場で衝撃的な光景を目撃します。それは、ニワトリが羽を背面にねじり上げられて高いところから落とされ、処分される様子でした。あすかは偶然難を逃れたニワトリを保護し、残酷な扱いを受けているニワトリのために自分にできることはないかと考え始めます。
顧みられることのない弱者にために声を上げるとどんな扱いを受けるようになるのかということを克明に描いていることに、この作品の怖さがあります。あすかを待ち受けているのは、痛罵や黙殺です。どうせ家畜は食べられるために飼育されているのだから「しょうがない」という、「しょうがない」の論理を覆すのは困難です。また、アニマルウェルフェアに配慮した飼育法を採用すればたまごの値段が大幅に上がってしまうことに抵抗感を持つ生活者の感覚を説得することも難しいでしょう。
しかしこの社会には、それまで当たり前とされてきた常識が変革され、顧みられることのなかった弱者の権利が尊重されるようになった実例はいくらでもあります。新聞クラブに入れなかったあすかは、ひとりで新聞を作っていま起こっていることを多くの人に伝えようとします。そして、少しずつ味方を増やしていくことで希望を広げていきます。社会運動ものの児童文学として地道で堅実なあり方をしている作品です。
しかし気になるのは、あすかの親友にひかりという名前の子がいるのに、なんで保護したニワトリにヒカリという名前をつけたのかということです。どうして堀直子はこういう細かいところにちょいちょい闇を入れてくるのでしょうか。