『マリ×トラ事件ファイル 1 届いた依頼はラブレター!?』(花井有人)

主人公の鳥海真理は、コ○ン的なアニメに憧れてひとり探偵部活動をしている中学二年生。でも、コ○ンじゃあるまいしふつうの子どもの周囲で難事件が頻発するはずがなく、探偵部にくる依頼は浮気調査ばかりでした。ところが、「転落死事件の原因を探してほしい」という今までにない依頼が舞いこんできます。
真理の探偵としての特性が愉快です。主な活動は浮気調査という地に足のついた堅実さも笑えますが、真理は浮気を暴くことをしません。以前浮気の証拠をつかんだら依頼者から逆恨みをされたため、浮気が判明したら犯人を恫喝して依頼者に優しくするように促すようにしています。そのさい、浮気の事実は隠蔽します。真実を隠蔽し場当たり的な対応で問題を糊塗する真理の態度は、探偵として重大なコンプラ違反と断じざるをえません。そういう探偵の名前が「真理」というのは、皮肉が効いています。
真理に与えられた謎も笑えます。依頼人は成績優秀な無口イケメンの月山虎。転落死というのは恋に落ちたことの比喩で、虎は自分が真理を好きになった理由を探ってもらいたいのだといいます。これは事実上の告白です。真理の自己認識は地味なオタク女子で、恋愛方面に関しては自己肯定感は高くありません。そんな女子にこの依頼、こんなひどい恥辱ある!?
あまり多くは語れませんが、ミステリとして非常にいい根性をした作品です。なにしろ主人公をはじめとして登場人物が嘘つきばかりなので、謎解きの過程でだんだん人間不信になってきます。そして、恋愛に対するドリームをずたずたに破壊します。いや、そもそもこの作品世界は浮気をする中学生が無数にいる設定なので、最初から夢はなかったか……。