『ゼペット』(レベッカ・ブラウン)

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レベッカ・ブラウンの掌編を柴田元幸の訳カナイフユキのイラストで絵本化した本。とんでもない鬱絵本でした。
ゼペットは木の人形を制作し、それを本当の男の子として愛したいと願いました。しかし人形はそれを拒絶します。ゼペットがいくら自分の愛の深さやこの世界の美しさを説いても、人形に届くことはありませんでした。やがてゼペットは死の時を迎えます。
芥川の河童を思わせる趣向ですが、人形が出生を拒否することに「理由なんてない」としているので、拒絶される側からしたら不条理度が上がります。しかし反対側から眺めれば、出生させる側の思いを一方的に押しつけることの暴力性もあぶり出されます。
ゼペットは最期、男の子であり大人でもある人形に愛され看取られる幻想のなかで生きます。ここがカナイフユキのあわく優しげなイラストで描かれているだけに、むしろその夢のおぞましさが強調されます。実際にケアをしてくれている人々に対しても無礼です。
客観的にみればゼペットは身勝手な人間です。でも、孤独な人間が夢のなかで幸せになるくらいの救いはゆるされていいのではないかとも思われます。
ラストの無言のページでは、画家の独自解釈が披露されています。カナイフユキが生み出した空白の重力に読者は打ちのめされてしまいます。