『殺したい子』(イ・コンニム)

殺したい子

殺したい子

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「好きでしたよ。何て言ったらいいのかわかりませんけど…………『好き』なんて言葉じゃ言い表せないほど、ソウンが好きでした。ほかの誰にも奪われたくないくらいに」
(p112)

『世界を超えて私はあなたに会いに行く』に続いて、イ・コンニムの百合YAの邦訳第2作が出ました。「したい」を強調する題字のデザインが性格悪くていいですね。
校舎裏の焼却場跡で、高校1年生の女子生徒ソウンの死体が発見されました。有力な容疑者になったのはソウンの親友だったはずのジュヨン。しかし事件当時のジュヨンの記憶ははっきりせず、弁護士にも曖昧なことしか言えません。ジュヨンと弁護士やプロファイラーらとの接見の様子と様々な関係者の証言が交互に語られ、事件の見え方はどんどん混迷していきます。
ジュヨンは何不自由なく育った金持ちのお嬢様で、ソウンは困窮した家庭で育った子でした。周囲の証言には、ジュヨンはソウンをいじめから救ったヒーローだったというものもあり、ジュヨンがソウンを奴隷のように従えていたというのもあり、実態はなかなか見えてきません。さらに厄介なのはジュヨン本人がソウンに対する感情やふたりの関係性を明確に理解していないところで、自分でも説明不能な感情の奔流が読ませます。
露悪的な言い方になりますが、世間は少年犯罪や少年犯罪報道が大好きです。ある面でこの作品の主役は、ゲスな物語を求めるわれわれの欲望であるともいえます。それに冷や水を浴びせる構成が憎いです。そんななかで、いじめ被害経験があったため予断を持ってジュヨンに接した国選弁護人がもっとも真実らしきものに近づくというのも皮肉です。