『おとな体験授業?』(なかがわちひろ)

5人の子どもが「どんなおとなになりたいか」を短冊に書いて金色の液体が入ったビーカーに投入し沸騰させると、おとなになった自分の姿の幻覚(?)を見ます。ただし、玉突き事故的に他の子の短冊の内容を体験することになり、子どもたちはとまどいながらも未来に向けての知見を得ていきます。
先生が準備室で授業の仕込みをしている様子を描いた冒頭のイラストが、期待感を煽ってくれます。怪しい巻物、天秤、かえるの入った水槽、そして、魔神が出てきそうな形状のランプ。絶対まともな授業になりそうにありません。
学校での進路学習は職業に就くことが前提になされ、おとなになることと労働することがイコールであるかのように扱われます。その思いこみをユーモアを交えて解きほぐしているところが、この作品の特徴です。
最初の子は、マンガ家になりたかったのに気がつくとラーメン屋で働いていました。でも、ラーメンのトッピングを盛りつけるセンスを褒められます。職業の適性について、柔軟な考え方が示されています。
もっともおもしろいのは、仕事をしている気配がなく昼間から公園にいて子どもたちと遊んであげる謎おばさんになった子がいることです。ここでおとなになることと労働することが完全に切り離され、おとなになるということの本質が検証されます。
また、最後の子は仕事をするということは「プレゼントこうかんみたいなもんをしてるってことかな」と分析します。これも、社会のなかで生きるということの核心を捉えているように思われます。