『バスを降りたら』(眞島めいり)

峰森高校附属中学に通う奈鶴と、清瑛中学に通う律、学校は別だけど同じバスで通学しているふたりが交互に語り手を務めるという趣向の作品です。ふたりの世界を深く交錯させることなく、地に足のついたエピソードの集積で子どもたちの視野をささやかに広げる手つきは、まさに達人の技です。
奈鶴は優しい魔女みたいな家庭教師の奏先生と、「どうして英語を勉強するのか」という〈大きな問い〉に挑んでいます。彼女の視野の広がりは、初めて眼鏡をかけるという実に即物的なエピソードで語られます。ただし、そこで「見えすぎ」ることは疲れるということにも触れているところに、バランス感覚があります。
律は本当は峰森高校附属中学を目指していたのに受験に失敗して清瑛中学に入り、高校受験で再び峰森に挑戦しようとがんばっています。ところが、担任の先生がよりによって不本意入学の律に小学生向けの学校説明会用の資料作りを頼んできます。しかも相棒になったのがマイペースな志鳥くんで、苦労がさらに増えます。律の課題は、自分の居場所ではないと感じている学校への見方を変えることです。つかみどころのないように思えた志鳥くんに正面から向きあってくもらえたことで、律の思いは解きほぐされていきます。
奈鶴と奏先生、律と志鳥くんと、1冊で百合とBLが楽しめるのがお得です。その他の登場人物では、律の担任の藤町先生が印象に残りました。特別いい先生でもなく、特別悪い先生でもない、生徒への配慮が滑ったりもするふつうに善良な先生のふつうさが好ましく思えました。