『彼女が生きてる世界線! 2 変わっていく原作』(中田永一)

中田永一初の児童文庫シリーズの第2巻。アニメの世界の悪役城ヶ崎アクトに転生したサラリーマン青年が、白血病で死ぬ運命にあるヒロインの葉山ハルを救うため奮闘します。第1巻はアニメ本編が始まる前の少年編、2巻からいよいよ本編の高等部編が始まります。しかしアクトはすでに原作のアニメと似ても似つかない善良な少年になってしまったため運命が変わり、起こるはずのイベントが起ってくれません。主人公の蓮太郎とハルのあいだに交流が生まれなかったので、アクトはふたりの縁結びをするためにあれこれ画策しますが、全然うまくいきません。
2巻の序盤では、アクトとハルの初めての本格的な接触のエピソードが語られます。アクトが女子をいじめていると勘違いしたハルは、「最低な行為です」と罵ります。ハルの声優の大ファンであるアクトは、もう一度そのセリフを言ってもらいたいと迫って、気持ち悪がられます。え、罵ってくださいから始まってうまくいくラブコメってあるんですか?
前世の記憶があるゆえに絶対にハルに好かれることはないと思いこんでいることや、サラリーマン時代の常識を変な場面で使ってしまうことなどがほどよく笑えるギャグになっていて、ラブコメとして堅実なつくりになっています。しかし、白血病の発症という運命だけは回避のしようがなく、悲劇としても盛り上がっていきます。
加害者が改心して幸福になることは許されるのかというテーマが、2巻で浮上してきます。ハルの友人がかつてアクトにひどい目に遭わされていて、彼女にとってはアクトの変貌は許せるものではありません。ただ、転生者のアクトには幼少期のアクトの悪事に全く責任がないというのが設定上厄介なことで、アクトが彼女の憎悪をどう受けとめるべきなのかという問題は難しいです。ところで、3月に邦訳が出たマイケル・モーパーゴの『西の果ての白馬』は、フィクションのなかで人を殺す作り手とそれを消費する受け手の倫理について考える際の参考になりそうです。