『リブリアの魔女』(日野祐希)

魔法学校を卒業したばかりの少女メノアは、不幸にも魔導師への弟子入りのためのオーディションに病欠してしまいます。魔法学校の教員をしている従姉のリリーナを頼ったところ、稀代の天才魔導師と評判のシェリルを紹介されます。しかし、うまい話には裏があるもので、シェリルの営む工房に赴いたところ出てきたのは残念オーラ漂う美人で、工房のなかはどこに出しても恥ずかしくない汚部屋。生活能力が破綻しているシェリルのために家事にも苦労しつつ、メノアは正式に弟子入りするための試練に挑みます。
大学の図書館を舞台にした『ライブラリー・ツインズ』に続く、日野祐希の児童文学作品。シェリルの工房の地名が「リブリア王国の王都コデックスのルリユール通り」だというところに著者のヘキが流れ出ています。
『ライブラリー・ツインズ』の主人公と同じくメノアも劣等感をこじらせるとなかなか抜け出せなくなるタイプで、うまくいかないことがあるととことん落ちこんでしまいます。シェリルの方はかなりベタ甘で最初からよほどのことがない限り試験に合格させる気であることは端からみている読者には明瞭にわかるのですが、メノアにはそれが伝わっていないのがつらいところでもあり笑えるところでもあります。
弟子入りのための試練でメノアは、泥棒を追いかけたり海で巨大イカのモンスターと戦ったり、愉快な冒険を繰り広げます。メノアの使う魔法はほうきで空を飛ぶことや巨大化させ手足を生やしたトランプを使役するくらいの地味なものでしたが、対巨大イカ戦では豪快な魔法を使って驚かせてくれました。
終盤の試験は魔道書作りだというのも、日野祐希ならでは。魔道書作りの作業の半分はふつうの製本作業ですが、製本用語や製本の工程が魔法的で魅力あるものにみえてきます。それにしても、シェリルの製本作業の手際のよさにみとれてふたりで料理をする妄想に耽るメノアは、かなり末期に思われます。
魔法使いの弟子というファンタジーの定番を手堅く仕上げた良作でした。