『つる子さんからの奨学金』(まはら三桃)

中学2年生の3月、わかばの一家は曾祖母のつる子さんから呼び出されます。用件は、高校受験の志望校をワンランク上げて合格したら学費を援助するという思いがけないものでした。わかばはこの提案に乗り、進学塾に通うようになり本格的に受験勉強を始めます。
わかばはどんどん弱肉強食の競争原理に飲みこまれていきます。いい具合に洗脳されていって、中盤まではホラー感があります。そこに男子は受験の点数で下駄を履かされるという性差別の問題も絡んできます。それゆえ女子は男子よりがんばらなければならないと、母親はわかばを追い詰めます。性差別の構造により、弱者がより弱い弱者をしばくという悲劇が生まれているわけです。このことがわかばが多様な選択の幅を意識するきっかけになっているのは、なかなか皮肉です。わかばの最終的な決断は、かなり驚かされるものでした。
わかばが個人として主体的に自分の進路を選ぶのはもちろんよいことです。ただ気になるのは、進路選択の幅が許されるのは経済的に余裕のある家庭の子どもだけだということです。そもそも大多数の子どもにとっては、奨学金をくれる曾祖母という存在は現実からかけ離れたファンタジーです。本来であれば奨学金をくれる曾祖母という存在は公助のメタファーであるべきですが、この国に子どものための公助を期待するのも現実離れしています。
『つる子さんからの奨学金』と対極にあるYA・児童文学は、村上しいこの『青春は燃えるゴミではありません』でしょう。こちらは貧困家庭の子どもが進路に抱く夢を打ち砕く内容で、あまりにも酷いです。進路選択には家庭の格差が如実に現れてしまうので、YA・児童文学のテーマとして扱うにはデリケートな配慮が求められそうです。