『はなとりかえっこ』(角野栄子/さく さとうあや/え)

「空が 青くって、お花が さいて、木の葉が ぴかぴか ひかる、うつくしい きせつ」、優しい童話文体で表現されるこの季節が地獄の季節であることは、周知の通りです。アラさんは「おばけが ぶらさがっている みたいに きもちが わるい」花粉症に悩まされています。そのイライラとくしゅんくしゅんをまくしたてるセリフも秀逸。リアルな病苦を愉快な角野童話文体で処理するところに、なんともいえない味わいがあります。
そこにやってきたのがブタさん。初対面なのに図々しく家に上がりこんできて、鼻を取り替えっこしようと取引を持ちかけてきます。ブタさんはくしゃみをする鼻を手に入れることによってみんなに噂される人気者になった気分を味わえ、アラさんはくしゃみから解放され大きな鼻でほこりを吹き飛ばして掃除ができるという特典も得られるというWin-Winの取引になるはずでした。でもアラさん、せっかくのブタさんの親切をそういうふうにしちゃうんだ……。欲をかいた人類が奇妙な取引に失敗するというお約束を童話としていい温度のギャグにしています。そこからシスターフッドが生まれるゆるい結末も心地いいです。