『ぼくたちは飛ぶ』(新冬二)

1975年、太平出版社刊。新冬二の短編集。不条理度の高い作品が多いので、古川タクのイラストがよくあっています。
表題作「ぼくたちは飛ぶ」は、自分にはつばさがあって飛ぶことができると主張するキミオくんをめぐる物語。物語の冒頭ではキミオくんの友だちが親にそのことを報告し否定される場面を繰り返し、大人の無理解を強調しています。キミオくんが池の橋の上やデパートの屋上で飛ぼうとする場面でも、当然ながら大人の妨害に遭います。その後、物語は宇宙にまで飛翔し、子どもの欲望が地球を喰らい尽くすという次元にまで飛躍します。ただし、「できるものならやってみな」的なニュアンスを残し子どもの全能感を全肯定はしていないところが洒脱です。
「キミのおなかの中に」は、気味の悪いSF童話。毎朝酒屋でコーラを飲むことを習慣にしているタロウがおなかを壊し、病院の地下でおなかに水筒を移植するという奇妙な手術を受ける話です。この手術を男同士の共犯関係としているところは今日的な観点では問題とも思われますが、成長の不条理な側面を描き出した作品であるとはいえそうです。
「道はとおい」はリアリズム作品。スリに遭ってしまったため世田谷から江戸川までひとりで徒歩の旅をする少年良一の物語です。都市の彷徨というテーマは、いかにも新冬二らしいです。大人たちに道を尋ねながら歩く良一ですが、親身に手助けしてくれようとする大人は現れません。しかし、最後に現れたキップを買ってくれようとする大人に良一はなぜか反感を抱き、拒絶しようします。この説明しがたい感情のあり方にリアリティがあります。