『ダッドリーくんの12のおはなし』(さく/フィリップ・レスナー  え/アーノルド・ローベル)

1965年にアメリカで刊行された幼年童話。イラストは、「がまくんとかえるくん」シリーズで有名なアーノルド・ローベルです。これは三世代以上にわたって愛されるべき傑作で、いままで未邦訳だったというのはおどろきです。今回の邦訳出版を実現した企画者には心より賛辞をおくりたいです。
少年ダッドリーくんを主人公とする4ページほどの短いお話が12編収録されています。ちょっとした論理の飛躍がもたらすナンセンスがみどころです。
第1話の「ダッドリーくんと友だちのいない友だち」は、町に引っ越してきたばかりのダッドリーくんが隣の家の男の子に会いに行く話。まず、自己紹介の滑らかな口上がおもしろいです。

「ぼくの名まえは、ダッドリーピピン。きみんちのとなりの黄色い家にすんでるんだ。パパもピピンで、ママもピピン。しんせきもいっぱいいて、みんなピピンっていうんだよ」

引っ越したばかりのダッドリーくんには友だちがいませんが、隣家の男の子アービングにも友だちがいなくて、向かいの家の友だちのいないルイーズ・フランと友だちのいない者同士で遊んでいるのだといいます。そこでダッドリーくんは、友だちのいないやつだけが入れる『友だちなしクラブ』を結成しようと提案します。いや、それはすでに友だちでは?
第2話は、自転車で爆走しておばあさんにぶつかったダッドリーくんが、おばあさんに当たり前のように自転車を強奪される話です。おばあさんは、ダッドリーくんは罪悪感を感じて自分に自転車を献上したくなるはずだという超論理を展開して自転車強奪の動機を語ります。羅生門の老婆でも引きそうな超論理ですが、その後ダッドリーくんとおばあさんは和解して二人乗りで買い物に向かいます。おばあさんが自転車のハンドルに飛び乗って運転しているダッドリーくんの視界を塞ぐという乗り方のマナーが最悪です。その様子を描いたアーノルド・ローベルのイラストも笑えます。
わたしがもっとも気に入ったのは、「ダッドリーくんと校長先生」というエピソードです。濡れ衣を着せられて泣いているダッドリーくんを校長先生がなだめます。泣いていることをいくじなしだとからかわれて落ちこんでいるダッドリーくんにかけた校長先生の言葉がいいです。

「いくじなしっていうのはね、ないたら、いくじなしって、よばれることをこわがって、なかない人のことをいうんだよ」

そして校長先生はポケットから青い笛を取り出して「楽しげで、それでいて、どこか、かなしげな曲」をきかせてくれます。どうしようもない悲しみを笛の音とともに葬送するラストが美しいです。