『ぼくらは星を見つけた』(戸森しるこ)

主人公の岬くんは、児童養護施設育ちの男性。職歴は美容師と手品師見習いと塾講師、楽団に所属していたこともあるという多彩なものでしたが、今度は住み込みの家庭教師の職に就こうと面接を受けます。職場は丘の上にある青い屋根の洋館で、いかにも浮世離れした感じ。そこの主のそらさんは、岬くんに「恋人はいるの?」と面接では質問してはいけないことを平気で尋ね、採用されたら「家族になる」のだと言います。従業員を家族呼ばわりするのは、ブラック企業かカルトと相場は決まっています。岬くんは無事生き残れるのか……?
館の住人たちの秘密について詳しく語ることはできないので、感想がぼやけたものになることをお断りしておきます。戸森しるこ作品の特色といえば、関係性の毒を描くことにあります。他人との関係になにかを求めることは、容易に加害につながります。しかし、人はそんな人間関係から逃れることはできません。そういったいびつさを美的にコーティングして提供してみせるところに、戸森作品の他にはない文学性があります。
たとえばデビュー作の『ぼくたちのリアル』。このタイトルは、リアルという名の少年に非現実的ないい子の仮面を被せてみんなで所有するという意味を含んでいました。人間相手に所有欲を向けるのは、もちろん不道徳な欲望です。『ぼくらは星を見つけた』では、その欲望の問題にもっと露骨に取り組んでいます。
そらさんは財力にものをいわせて、岬くんが育ったみさき学園という児童養護施設を私物化していました。強者が弱者を財力で屈服させ利用する構図がみえてきます。この作品で描かれている残酷な真実は、財力があれば簡単に他人を所有できるということです。