『ややの一本』(八槻綾介)

第11回ポプラズッコケ文学新人賞大賞受賞作。國竹ややと仲間たちは剣道を習っていましたが、道場の先生が亡くなってしまい、進学した中学校には剣道部がなかったので、帰宅部員としてのんべんだらりと過ごしていました。ひとりだけ別の中学校に進学し、かつての先生とは正反対に小手先の技で勝利だけを目指す方針の指導者の下で剣道を続けている一香のことは、裏切り者と呼んでいました。でも剣道のことは諦めきれず、経験があるらしい保健室登校の転校生も巻きこんで剣道部をつくろうと活動を始めます。
この作品の最大の美点は、行動力があって元気な主人公の魅力でしょう。区役所でけんけんぱをして学校に苦情を入れられるといったいたずらは、昭和後期あたりのユーモア児童文学に出てくる悪ガキの所行のようで好感度が高いです。また、正義の道場の名前が「真善美」で悪の道場の名前が「卑怯」であるといったわかりやすさもよいです。しかし、主人公のいちばんの得意技がセクハラ攻撃だというのはどうか。いまの時代に児童文学でハチベエ型の主人公を造形するのなら、相応の配慮は求められるはずです。
トランスジェンダーや貧困など現代的なテーマに果敢に取り組む意欲も買いたいです。ただしこれも限られた分量のなかで処理する能力が足りておらず、不幸の見本市で終わってしまったようなきらいがあります。
イキのいい主人公の魅力、ストーリー展開のスピード感、わかりやすさ読みやすさなど加点ポイントはたくさん持っている作品です。しかし、すべての長所が現代の児童文学としては雑すぎないかという欠点に反転しかねない危うさも持っています。結局どうなのかと聞かれると、言葉を濁さざるをえない感じがします。