『最後の語り部』(ドナ・バーバ・ヒグエラ)

2061年の近未来から物語はスタートします。地球はハレー彗星の衝突で滅亡しようとしていました。12歳の少女ペトラとその家族は幸運にも恒星間移民船に乗る権利を得ます。移民船内では眠りにつき、脳に直接知識をインストールする技術で植物学と地質学のエキスパートになって新天地で目覚めるはずでした。しかしペトラが目を覚ますと、移民船内では外見が均質化した人類が全体主義的な体制を敷いていて、ペトラも人格を剥奪され奉仕させられそうになります。ひとり正気を保っているペトラは、おばあちゃんから受け継いだ物語の力を武器として孤独な戦いを強いられます。
おばあちゃんは、地球を母とし太陽を父とする火のヘビの守護霊を主人公とする創作神話を語りました。父の元に行こうとしたヘビはその炎に目を焼かれ、地球に引き返そうとしたときにはすでに視力を失っていました。母である地球を見つけることができず、ヘビはその周りを回るハレー彗星になったのだと言います。ハレー彗星が地球に帰還する今回の事態は、ハッピーエンドでもありバッドエンドでもあるということになります。序盤で語られるこの、人智ではどうにもならないように思えることを物語化して消化しようとする人類の切実な営みが、作品全体の方向性を示します。
物語への信頼というテーマが芯となりつつ、サスペンス性に富んだ展開でも読ませてくれる、実にウェルメイドなエンタメになっています。
2022年ニューベリー賞受賞作。ラテン系の作家の作品に与えられるプーラ・ベルプレ賞も授賞しています。こんなコテコテのSFがニューベリー賞を受賞できるとは、彼我の児童文学評価環境の差に驚いてしまいます。日本の児童文学賞ジャンル小説をちゃんと正当に評価したほうがいいと思うよ。