『ドアのむこうの国へのパスポート』(トンケ・ドラフト&リンデルト・クロムハウト)

トンケ・ドラフト とリンデルト・クロムハウトの共作。
ラウレンゾーは、生徒が10人しかいないクラスで学んでいます。このクラスにいる子は、「大人数のクラスでは、居心地が悪いと感じていた子どもばかり」。心ない人は「ばかとへんな子の学校」と呼んでいます。ラウレンゾーはクラスの代表として作家のラヴィニア・アケノミョージョの家に行き、そこでビザとパスポートを持った者しか入れない鍵のかかった部屋を発見します。その後クラス全員分のパスポートが送られてきて、ビザ作りの課題を与えられます。
別世界への入り口の魅力にあふれた作品です。作家の家への行き方がまず子どもにとっては大冒険で、

まず最初は、バスに乗って、二つ目の停留場でおりる。それから、船で川を渡る。渡ったら、川にそって右へすすむ。そのあと、〈外見と実態通り〉を左に入る。

川の渡し守の老人も怪しげだし、〈外見と実態通り〉という地名も小洒落ていてよいです。
物語の後半では、子どもたちが行きたい国のビザを作る空想遊びが展開されます。子どもの切実な願いが、うまくすくいとられていきます。
この本の成立過程を説明したリンデルト・クロムハウトによるちょっと長めのあとがきは、本編以上に読者の心を揺さぶるかもしれません。1978年にすでにオランダを代表する児童文学作家になっていたトンケ・ドラフトの家を初訪問するエピソードから始まり、1982年に起きた愚劣な公権力が表現の自由を弾圧した事件へのユーモアあふれる抵抗の物語が語られ、そこから発展した楽しい企画がこの作品につながっていくいきさつが明かされます。子どもの本の作家としてあるべき姿勢の示唆がふんだんに詰められています。