こわいものは、病院の屋上から始まり、つりばし、のぼりだけのエスカレーターと、落下と上昇のイメージをどんどん繰り出していきます。近藤薫美子のイラストのイメージ喚起力が高く、想像力を働かせればどこまでも深く潜っていけるし、どこまでも高く上っていける果てのない恐怖を演出してくれています。
ただし、この想像力合戦は犬といういまそこにある脅威からの現実逃避でもあるという側面を持っています。そこを、ああいう結論に持っていくのは村中李衣の人徳のなせるわざです。
表紙にあるのは、牙の生えた口です。つまり、ここに表れているのは捕食されて死ぬという根源的な恐怖です。
ひこ・田中はこのような寸評を提示しています。
『それよりこわい』(村中李衣:文 近藤薫美子:絵 佼成出版社)下校時の男の子二人。怖い先生の話から、あの家の犬の方が怖い。いや***の方が怖い。と想像力を膨らませてどんどん怖くなる。ひょっとしたら、一番怖かったのは、この世に生まれてくる時だったかもね。https://t.co/NAM2vq7Qhk
— ひこ・田中@『あした、弁当を作る。』(講談社) (@hicotanaka) May 29, 2023
確かに、露骨に産道を想起させるページがいくつかありました。となると、牙の生えた口からはもうひとつのメタファーを読み取ることができます。生と死の両面に恐怖があるのだとすれば、逃げ場はありません。ということは、これは光属性の村中李衣かと思いきや、やはり闇属性の方だったということでしょうか。