『ぼくたちのいばしょ 亀島小多国籍探偵クラブ』(蒔田浩平)

小学6年生の春馬は、友人の秀則とクラスの新聞委員を務めています。秀則は推理力抜群で、春馬はワトソン役をしていました。そんな新聞委員に、ネパールから来た転校生のサラダが加わり、新聞委員は深刻な差別と直面します。
小学生たちはいっぱしの差別者としてふるまうので、作品世界のトーンはかなり暗いです。特に読者を陰鬱な気分にさせるのは、よりによって探偵役の秀則がいないときに起きたサラダのうわばきの消失事件。先生がクラス内でうわばきがなくなったことを話すと、ひとりの女子がもう一度げた箱を見に行くようにと提案します。そしてみんなでげた箱を確認すると、うわばきは戻っていました。結局クラス内ではサラダが嘘をついていたということで落ち着きます。差別を主導している女子グループがうわばきを盗み、さらにサラダを陥れるためにわざとこっそり返していたとしか思えないいやな状況を設定してくれました。
物語のクライマックスは、運動会の借り物競走です。新聞委員グループは日本語を母語としない子でも不利にならないようなルールを模索しようとします。しかし差別者たちは、めんどくささと純粋な悪意で、それを阻止しようとします。
借り物競走自体はきれいな逆転劇で終わり、物語としては一応の落としどころをみせてくれます。しかしそれだけで終わらせてくれないのがこの作品のいやなところ(賞賛すべきところ)で、なんと差別を推進していた女子たちが、運動会後に「いろいろあったけど、いい運動会になったよね」「国際化、多様性サイコー!」とのたまうのです。差別をする側が差別に抵抗する側の手柄を盗むという、恐るべき悪が描かれています。
作品の中心的な謎となっていたうわばき事件も最後の最後で真相が判明しますが、それもひとつひとつの事件を解決しても消し去ることのできない差別の根深さを印象づける結果となっています。ミステリ的な味つけで娯楽性を確保しながらも、目を背けたくなるくらいの差別の邪悪さを暴き立てようとしている、意欲的な作品でした。