『エール! 主人公なぼくら』(室賀理江)

ある男子が登校中に後ろから声をかけられたが、別の子と間違えられていて、間違えた方が「ちょーハズい。ムカつく」という暴言を吐くというプロローグから始まります。第1章ではプロローグで声をかけられた方の男子と思われる小学5年生の大地が主人公になり、サッカー少年で人気者の陽介から運動会の応援団に推薦されます。大地を含むクラスの4人の子どもが語り手をつとめ、近所に住む義足ランナーとの交流と運動会の応援を中心とする物語が展開されます。
第2章の主人公はお調子者の男子アラタで、女子の恋愛沙汰に巻きこまれてひどい目に遭ったうえ、女子の謎ポーチを捨てたという濡れ衣まで着せられてしまいます。ここでアラタを救ったのが大地でした。大地は群体として動く女子をひとりひとりの個体に解体しようという戦略をとります。
ここでバランスの取り方がうまいと思ったのは、大地がいかに正論を言おうとも、「ボールの持ちすぎ」は反感を買うということに言及があったことです。また、人気者の陽介にあるルーティーンを設定しているところなどにも、よいバランス感覚が感じられました。
印象的なエピソードを取り出すと読者の胃を痛くさせる作品のように思われそうですが、実際はそれほどではありません。根底に子どもの善性への信頼があるので、学校で起こりそうないやなエピソードは続くものの全体として読み心地はよかったです。