『虹色のパズル』(天川栄人)

「みんな違ってみんな地獄なの」

主人公の琴子は、ルービックキューブや数学を愛する中学2年生。しかし女子が理系分野に興味を持っていることがバレると「変な子」扱いされることはわかっているので、「馬鹿のふり」をしています。そんな琴子が夏休みに突然、会ったこともないおじ(母の弟)に預けられることになります。おじのアイちゃんはドラァグクイーンで、税理士の男性のリボン(ヒモのかわいい言い方)をしている人物でした。アイちゃんとの出会いによりに琴子のそれまでの常識は粉々に破壊されます。
悩みを抱える子どもが個性的な親類との関わりによって成長するという、よくある児童文学の定型が使用されています。最終章を除く章タイトルは「ゲイって何ですか?」「リケジョって何ですか?」などと疑問形になっており、読者に知識を注入しようという意図が露骨に透けてみえます。こういったタイプの作品は匙加減を間違えると説教臭さが先行して読むにたえないものになってしまいがちですが、この作品は非常に読みやすくておもしろかったです。
当座の壁としてイエとの戦いをクライマックスに設定し、さらに琴子の数学への興味に収束させる物語の組み立て方が美しく、エモーショナルな盛り上がりをみせてくれます。
人物の描き方は多層的です。アイちゃんはセクマイとして差別される側に立たされていますが、ホモソーシャル的な価値観を内面化しているという面では女性に加害する側にいます。また、琴子に女子らしさを強要する母もセクマイについての知識の面では琴子に優越していて、アイちゃんに対する愛情も琴子より深いものと推察されます。単純な善と悪の対立構図では割りきれない複雑さが立ち現れてきます。
読者に与える情報は冷静に整理されていて、議論小説としても興味深く読み進めていくことができます。
情と理の両面に訴えかけるテクニックが優れた作品です。セクマイやジェンダーをテーマとする児童文学・YAが近年目覚ましくレベルアップしているなかで、またひとつ重要な作品が生まれました。