『ひと箱本屋とひみつの友だち』(赤羽じゅんこ)

本好きの女子と車いすユーザーの女子の友情の物語。ふたりの出会いまでの展開がハイスピードで本好きの夢が詰め込まれていて共感ポイントが多いので、すぐに物語の世界に入っていけます。
下校中、本を読みながら歩いていて転んでしまった朱莉は、「SHIORI」というひと箱本屋カフェを営んでいるお姉さんに助けられます。アート系の本を集めた箱や黒い本ばかりの箱など個性的な箱が並ぶなかで、ひときわ朱莉の目を引いたのは《虹色本屋》というオリジナルのファンタジーを売っている箱でした。その作者は朱莉と同年代の小学生らしく、ファンレターを書いた朱莉は作者の理々亜と「SHIORI」で待ち合わせをして会う約束を取りつけます。初対面のとき朱莉は理々亜が車いすユーザーであることを知らずはじめはとまどいますが、すぐに本オタク同士として意気投合します。
1章がだいたい10ページくらいの短さでそのなかにうまく論点を収めているので、バリアフリーの問題にはじめて触れる子どもでも理解しやすい構成になっています。
理々亜と知りあうことで朱莉はいままで意識しなかった障壁の存在を察知します。理々亜の障壁をなくすために勇気を振り絞りますが、自分はクレーマーになっているのではないかと不安になったり、結局は人の善意にほっとしたり、理々亜のこと自分のことをみつめる朱莉の感情の動きがみどころです。
また、女子同士の感情の絡みあいもみどころになっています。朱莉は陽菜という女子となかよくしていましたが、大きくなるにつれ趣味があわないことが気になってきて距離が生じていました。理々亜のことを話しても「ボランティアしてるんだ、えらいね」と言われ話がかみあわず、朱莉は新しい友だちにのめりこんでいきます。しかし陽菜は陽菜で思うところがあり、複雑になってきます。
物語の中心は朱莉と理々亜の友情です。でも、情に流されるだけではあらゆる差別問題は解決しませんし、それどころか解決から遠ざかってしまうことすら稀ではありません。そこを補っているのが、理々亜の人物像です。理々亜は自己主張できる主体性を持った障害者であろうと努力しています。障害者の権利獲得は、多数派に好かれることだけでなくむしろ嫌われるような運動によっても進展してきました。その歴史的経緯が理々亜の姿勢に表れているようです。