『ブニーとブールド』(山下篤)

ナンセンスほら話『うそか?ほんとか? 基本紳士の大冒険』(理論社・2004)以来、この名前をみるのはだいぶ久しぶりな気がします。
ぶたの貯金箱ブニーとブールドは、町外れの丘の上の小さな白い家で2匹で暮らしています。2匹が好きなのは、お金とパン。日にちの概念があやふやな2匹は毎朝木のお皿にドングリをひとつ入れることで日数をカウントしており、5個たまったらパン屋に行くことにしていました。パン屋のおじさんは2匹をひっくり返して硬貨を取り出し、それより多い硬貨を入れてくれて、そのうえパンまでくれるとても親切な人でした。パン屋さんをはじめとして善良な人々と交流しながら、2匹は楽しい日々を過ごします。
2匹の視野が狭いため、作中で本当に起こっていることがわからないところが不気味です。特に、硬貨を入れたり出したりする背中の穴が不可視で自分ではコントロールできないところがこわいです。作中で明確に悪意をもって2匹に接するのはカラスだけで、パン屋さんはおつりを入れているだけで硬貨を増やしてくれているわけではないのだとか、ごもっともに思えることを言って2匹を罵倒しますが、2匹はそれを否定します。でも、読者には本当にパン屋さんはいい人なのかどうか判断できません。はっきりしているのは、2匹にとってさかさにされて硬貨を出されることは苦痛で、パン屋さんは苦痛を訴えてもそれをやめてくれないという事実です。
このわからなさは、幼い子どものおかれている不安な状況が反映されているようです。