『怪談売買所 あなたの怖い体験、百円で買い取ります』(宇津呂鹿太郎)

市場の廃墟のなかにある怪談売買所では、1話百円で怪談のやりとりをしています。店主は宇津井鐘太郎という人物。来店者が怪談を語れば百円をもらえ、逆に百円を支払って怪談を聞くこともできます。本書には、ここで宇津井鐘太郎が買った13編の実話怪談が収録されています。
カバーイラストのsakiyamaの描く怪しげな雰囲気の店のたたずまいがとてもよいです。この怪談集の特色は、客が怪談を語ると店主が解説を語るところです。店主は恐ろしい体験をした客の心のケアをしているようにもみえ、特に死に関わる怪談は慎重に扱っているようです。ただし、実際登場する怪談は割と怖く、死に関わる話では第10話の呪いの動画の話がディテールが凝っていてぞっとさせられます。怪談を語って解説を聞く客と13話通して読む読者では店主の印象は全く異なるものになりそうで、結局怖がらせることが目的なのではないかという疑いが持たれます。
また、金銭のやりとりをしているのもおもしろい点で、これにより異形の存在にも思える店主と客のあいだに取引をしたという関係が生まれてしまうのが不気味です。そして、当然といえば当然のオチに到達します。貨幣の価値と経済の力について考えさせられる、なかなか珍しいタイプのホラー児童文学でした。
なお、この感想はあくまでフィクションとしてのこの作品についてのものですが、怪談売買所は実在するそうです。