『恋愛相談 「好き」だけじゃやっていけません』(森川成美)

進学校の同じクラスだけどあまり接点のなかった三人が、恋愛相談の場をつくります。きっかけは、文化祭で人生相談の企画をしたこと。そこで三年生から恋愛の相談を受けますが、結局のろけ話を聞かされただけのかたちで終わります。ところがその後そのカップルが刃傷沙汰を起こしてしまいました。このことからきちんと恋愛相談をできる場をつくろうということになります。
校内で刃傷沙汰という発端にはなかなかインパクトがあります。三人組の恋愛相談の場では、相談者には仮名を使わせ関係者の性自認や性指向は問わないという点では配慮が行き届いています。しかし、そこに来る相談は発端の事件に負けないほどくせもの揃いで、一筋縄ではいきません。フィクションと現実の区別ができているのか怪しい子であったり、成人の交際相手がストーカーのようになってしまった子であったり、大変なケースばかりです。その一方で、デートがめんどくさい、交際に関わる経費が高校生には負担であるといった、いやに現実的な悩みにも踏みこんでいきます。
恋愛においては倫理は関係ないし、誠実さや清廉さが報われるわけではありません。そういう夢をぶち壊すようなことばかりを語りつつ、オチはいちばんヤバそうだったやつがああなるという気の抜けたものになります。語り手は恋愛相談を受ける理由を「そういう人の心の不思議な部分を、もっと知ってみたい」からだとしています。これはゲスな好奇心をそれらしくきれいに言い換えているものでしかありません。しかし、そういう意味不明な人の心を検証するのが文学の一面ではあるので、ある意味では真剣に文学している作品だといえるかもしれません。