『サインはヒバリ パリの少年探偵団』(ピエール・ヴェリー)

1960年にフランスで刊行されたジュブナイルミステリの邦訳が登場。富豪の養子のノエルが身代金目当てに誘拐され、少年たちがさまざまなアイディアを出しあって捜査します。
神話に出てくるヘラクレスみたいな大男が学校周辺に現れます。彼は盲目でしたが、よりによってそんな男の前で子どもたちが目隠し鬼をしてぶつかるという発端は、現代の児童文学ではできそうにありません。しかし、学校周辺に不審者が出没するところから非日常に導かれていく発端は魅力的です。子どもたちは親切心で帰宅する男の道案内をしますが、男は嘘の住所を教えていました。ここから男への疑惑が深まっていきます。
どうしても、被害者になるノエルの不憫さに目がいってしまいます。彼は学校でも家庭でも侮られていて、いつも鬼ごっこで鬼役を押しつけられていました。誘拐が発覚すると継母は自分の産んだ息子がさらわれたのではととりみだし、被害者がノエルであったことがわかると何事もなかったかのように平静にもどります。この継母の態度はひどすぎて、逆に笑えてくるくらいです。しかし、その不憫さゆえに、彼が犯人グループのひとりの男と奇妙な友情を結んでいくさまが輝いてきます。
少年グループはものすごい切れ者というわけではありませんが、失敗しても次々にアイディアを出して行動していくバイタリティが持ち味です。そこに、訳者あとがきで紹介されている犬・自動車・米軍といった当時のパリの文化や情勢が絡んでくるところも、現代の視点で読むとおもしろいです。