『彗星とさいごの竜』(今井恭子)

山奥で静かに暮らしていた竜の男の子の元に、騒がしい人間の女の子が訪れます。亡くなったママから人間には気をつけるように言い聞かされていた男の子はおびえてしまいます。女の子の目的は男の子と空を飛んで地球を滅ぼそうとしている彗星を止めることでした。しかし、男の子に飛び方を教える前にパパも亡くなっていたので、それも叶いません。男の子が空を飛べるようになるよう、女の子は特訓を施します。
女の子がにぎやかで、佐竹美保のイラストもたっぷり入っているので、滅びを前提とした寂寥感と楽しさの同居した不思議な読み味の作品になっています。しかし考えてみると、このふたりはなかなかの格差カップルです。女の子はエリートの家系で、しっかりした教育を受けています。一方の男の子は親を早くに亡くして教育を受ける機会を失しています。そんな女の子が男の子をある種の心中に巻きこむのは、ひどい搾取のようにも思われます。
ただし、自己犠牲で世界を救えるという女の子の考えは、幼さゆえの全能感によるものです。それが打ち砕かれ、男の子と対等な友情を結べるようになるのは、よい方向性です。