という冒頭部分からフリーダムにぶっとんでいます。家が家出するってどういうことなの? 月さんはかつて、絵かきにお話をしたこともあるのだと言います。たしかに月は一体しかいないのだからその月もこの月であるというのは理屈なんですが、場合によっては冒涜的発言と受けとられかねません。作品は素直に枠物語にはならず、ザザさんが月さんに激からカレーを食わせたりといったいじわる合戦も繰り広げられます。ザザさんが月さんのお話に興味を持ってくると、月さんは登場を遅らせてじらせたりします。その様子は
月さんは、その夜は、いつもよりゆっくり、あわられました。わざとです。
と記述されます。読点を多用してタメをつくったうえで「わざとです」を繰り出す地の文も、いい性格しています。
イラストは角野栄子? とかいうあまり聞いたことのない名前の画家さんなんですが、カバーイラストの月さんのゲス顔だけですばらしいセンスの持ち主であることがわかります。かえるやなめくじが大量発生する悪夢的場面も、実に気持ち悪く描いてくれています。
老人は結局幼年に導かれるという、童話として王道のしっとりした方向に物語は落ち着いていきます。しかし、登場人物の性格の悪さからそこに至るまでのギャグの濃度が尋常ではなく、非常に笑える作品になっていました。
それにしても、あの名作に好き放題落書きするなんてのは、国際アンデルセン賞作家様でなければ許されない暴挙です。