『月さんとザザさん』(角野栄子)

性格のねじくれたおばあさんザザさんについに愛想を尽かした家のスミコさんは、足を生やして家出しようとします。ザザさんはのこぎりを持って追いかけ、スミコさんの足を切ろうとします。そこに仲裁に現れたのが、月さん。月さんはザザさんに楽しいお話をしてやると約束してくれました。しかし月さんの方もなかなかいい根性の持ち主で、性格最悪のザザさんと月さんの愉快な煽りあいが始まります。
という冒頭部分からフリーダムにぶっとんでいます。家が家出するってどういうことなの? 月さんはかつて、絵かきにお話をしたこともあるのだと言います。たしかに月は一体しかいないのだからその月もこの月であるというのは理屈なんですが、場合によっては冒涜的発言と受けとられかねません。作品は素直に枠物語にはならず、ザザさんが月さんに激からカレーを食わせたりといったいじわる合戦も繰り広げられます。ザザさんが月さんのお話に興味を持ってくると、月さんは登場を遅らせてじらせたりします。その様子は

月さんは、その夜は、いつもよりゆっくり、あわられました。わざとです。

と記述されます。読点を多用してタメをつくったうえで「わざとです」を繰り出す地の文も、いい性格しています。
イラストは角野栄子? とかいうあまり聞いたことのない名前の画家さんなんですが、カバーイラストの月さんのゲス顔だけですばらしいセンスの持ち主であることがわかります。かえるやなめくじが大量発生する悪夢的場面も、実に気持ち悪く描いてくれています。
老人は結局幼年に導かれるという、童話として王道のしっとりした方向に物語は落ち着いていきます。しかし、登場人物の性格の悪さからそこに至るまでのギャグの濃度が尋常ではなく、非常に笑える作品になっていました。
それにしても、あの名作に好き放題落書きするなんてのは、国際アンデルセン賞作家様でなければ許されない暴挙です。