『晴れた日は図書館へいこう 物語は終わらない』(緑川聖司)

緑川聖司のデビュー作シリーズが完結。1巻の刊行が2003年、およそ20年で全4巻という異例のゆっくりペースです。
ミステリなので詳しく内容は紹介できませんが、今巻では承認欲求モンスターが暴れるエピソードがいくつかあって胃が痛くなりました。最終話の七夕の短冊に隠された暗号の話も、闇が深かったです。この本のカバー袖にはポプラ文庫ピュアフルから刊行されている「晴れた日は図書館へいこう」シリーズと「福まねき寺」シリーズのタイトルが並んでいますが、緑川聖司の真の代表作はそれらではないということを思い出させてくれます。そういえば、第1話でも〈わたしの本〉というワードが出ていました。
学生時代の緑川聖司を知る大崎梢による解説が興味深いです。一冊の本を作るために四百枚の原稿を用意するしたら「二十枚の原稿を二十本、なんなら十枚の原稿を四十本」が書きやすいとする緑川聖司の発言に感嘆したエピソードが紹介されています。こういう特性を持った作家が短い怪談の連作でひとつの物語を紡ぐという大正解にたどりついたことは、2010年以降に小学生時代を過ごした子どもたちにとっては僥倖でした。
番外編として、男性の非正規雇用司書が主人公を務める短編が収録されています。司書は官製ワーキングプアの代表とされことが多い職業ですが、その際に性差別問題として扱われるケースも目立ちます。確かにその視点は重要なのですが、そうしてしまうと男性の司書という少数派がさらに周縁に置かれてしまいます。そこに焦点を当てることには意味があります。物語は、技術を持っている人が幻想のなかでそれを披露するという童話の王道的な展開をみせます。こういうのを緑川聖司が書いたということにも驚かされました。