『しかばねの物語 チベットのむかしばなし』(星泉 編/訳)

悪い魔法使いたちに追われているトンドゥプという男が龍樹大師にかくまわれます。龍樹大師は魔法使いたちに襲われ、それを助けようとトンドゥプは魔法使いたちを殺めてしまいます。その罪ほろぼしとして、墓場から不思議なしかばねを持ってくるようにと命じられます。そのしかばねはおもしろいお話を語って聞かせてくれますが、なにかしゃべってしまうとあっという間に墓場に飛び帰ってしまうのだといいます。龍樹大師にデチュー・サンボという新たな名を与えられた男はしかばねを持ち帰ろうとし、案の定しかばねのお話に魅了され口を出してしまい逃げられるというお約束が続く枠物語となります。
お話に対してツッコミを入れたり疑問を出したりするのはもっともわかりやすい物語参加の方法で、デチュー・サンボは読者(聞き手)の代行者の役割を果たします。それにしてもお話を語るしかばねという設定が秀逸です。「腰から下が黄金、腰から上はトルコ石」でできているという存在がはたしてしかばねなのかといいうところから疑問はつきませんが。
もちろん、語られるお話もそれぞれ楽しいものばかりです。そもそも枠の外の、トンドゥプと魔法使いたちが変身魔法を使って追いかけっこをするエピソードからして読ませます。類話はたくさんありますが、様々な生き物に変身を繰り返すめまぐるしい展開には手に汗握るものがあります。
しかばねの語ったお話でもっとも好きなのは、お姫さまと結婚しようと企むカエルが主人公の「カエルとお姫さま」。笑い声で大地を揺らしたり、泣くと涙で洪水を起こしたりする、理不尽なまでのパワフルさがおもしろかったです。