『ココロノナカノノノ』(戸森しるこ)

飛ぶ教室」第67号から第73号に連載された作品が単行本化されました。主人公の毛利寧々は、父親の正夫くん(正しい夫の正夫くん)と母親の奈菜ちゃんの三人家族。でも本当は、母の胎内で一緒に過ごしていて生まれる前に亡くなった妹の野乃も、イマジナリーフレンドのように一緒にいます。中学一年生のときに寧々は、母親が妊娠していることを知ります。物語では、寧々がひとりの姉からふたりの姉になるまでの期間の日常の出来事が描かれます。
中学校に上がった寧々は、出席番号が近い籾山と森まりもという子と三人組を形成していました。この三人組の関係性が物語の軸のひとつになります。出席番号という偶然で成立した関係で、もともと仲のよかった籾山とまりもに寧々が加わったかたちで、寧々の立ち位置は微妙です。まりもは性格が悪く、イマジナリーフレンドの存在を公言している比企さんをいじめています。でも、まりもの方も籾山の庇護がなければ確実にクラスで疎外されると目されています。戸森しるこらしく、ねじくれた関係性の構築の仕方は一流です。
寧々と比企さん、イマジナリーフレンドを持つ者同士も関係を結んでいきます。ここではイマジナリーフレンドはイマジナリーであることを当人が自覚しながらも当たり前に存在するものであるとされています。その存在にも消失にも、外部から意味づけされることは拒んでいるようにみえます。
比企さんも絡んできて三人組の関係性も揺らいできます。寧々はだんだん性格の悪いまりもがかわいくなってきます。

まりもといるときは、もっと気持ちが複雑になる。それが、なんていうか、とても気持ちいい。癖になるっていうか。まりもに冷たくされると、まりものことがかわいいような気がしてきて、まりものことをもっと甘やかしてみたくなる。
これってちょっと危険な感じ。間違っていることはわかるのに、やめられない。

そんなときに三人組で水族館に行く約束が取りつけられますが、あろうことか籾山が体調不良で急に来られなくなり、三人組の要が不在で寧々とまりもがふたりきりになるという気まずい展開になります。ここらへんが、もっとも戸森しるこらしさが炸裂している場面です。
単行本には書き下ろしの未来編が収録されています。これはそつなくありきたりにまとまっているので、蛇足のように感じられました。ただし、河合二湖との対談で著者はこのように述べています。

戸森 この連載のお話をいただいた時に、ちょうど妊娠について考えていたんですよ。私自身は、子どもを産む気がないタイプの人間なんですが、どうしてこんなにも興味がないのかと疑問に思いまして。物語として扱った時に、少し興味が持てるんじゃないかと。

河合 書き終えて、どうでしたか?

戸森 やはり興味は湧いてこなくて、子どもは産まなくていいという確認になりました。
https://www.mitsumura-tosho.co.jp/webmaga/shoseki/nono/taidan01

それを平然と言ってしまえるのが戸森しるこの長所なので、きちんと作品のなかで昇華してもらいたかったです。