『いまにヘレンがくる』(メアリー・ダウニング・ハーン)

1986年にアメリカで刊行されたロングセラーの邦訳が出ました。モリーとマイケルの姉弟は、義父の連れ子のヘザーを憎んでいました。ヘザーには母親を火事で亡くしたという悲しい過去がありましたが、モリーたちにとっては気難しく嘘ばかりつく厄介者でした。さらに最悪なことに、芸術家の両親の趣味で都会から田舎に引っ越しさせられます。そこの墓地でヘザーは、「H・E・H」というイニシャルが記された倒れて忘れ去られたような墓石を発見します。やがてヘザーは100年ほど前に水死したヘレンという少女の亡霊に取り憑かれ、亡霊をネタにモリーやマイケルを脅すようになります。
教会・墓地・人を招く池など、古典的なホラーの道具立てがうまく配置されています。ヘザーの憎たらしさがだんだん差し迫った恐怖に変貌していくさまも読ませます。
しかし考えてみればヘザーもヘレンも同情すべき子どもで、彼女たちに対する見え方が変わることで家族の再生につながるという流れは児童文学としてまっとうです。
児童文学としてもホラーとしても安定したよさを持っているので、ロングセラーになるのも納得できます。