『竜神君の冒険』(川野京輔)

1959年に「中国小学生新聞」に連載されたジュヴナイルSFが2023年に初単行本化されました。小学六年生ながら瓦十枚を割れるほどの武術の達人竜神武道少年と、その父で天才科学者の竜神武男博士、おじでテレビ局のプロデューサーをしている竜神三郎らが、宇宙規模の陰謀に挑みます。
「星雲魔人の巻」「野獣男爵の巻」ふたつのエピソードが収録されています。「星雲魔人の巻」は、武道少年の妹が海から空に流れ星が上るという怪現象を目撃する場面から始まります。ほぼ同時に三郎おじさんは、テレビ局に現れた黒マントの怪人がテレビを中止するよう要求する怪事件に巻きこまれていました。謎めいた怪事件が続く導入部に引きつけられてしまいます。怪人の正体はM3星雲人。母星が滅亡したM3星雲人は地球を侵略して移住しようという野望を持っていました。
「野獣男爵の巻」は、光子ロケットの設計図をねらう怪人野獣男爵との戦いの模様が描かれます。フランスの原子科学者のレイモン博士がキーマンになり、フランス人が出てくるのでついでにメグレ警部を登場させています。こっちは「星雲魔人の巻」よりミステリ色が強く、レイモン博士を拉致しようとたくらむ野獣男爵と三郎おじさんが飛行機内でだましあいをする場面などは、展開がめまぐるしくて読ませます。
もっとも好きなところは、「星雲魔人の巻」でM3星雲人が自分たちの体が透明である理由を説明する場面。

「君たち地球の人間とは、からだのそしきがちがうのだ。――てっとりばやく言えば、からだの色素(しきそ)がちがうのだ」

やはりSFには、ダジャレが重要です。