『紫式部の娘。 賢子はきめる!』(篠綾子)

2016年にスタートした「紫式部の娘。」シリーズが全3巻で完結。紫式部の娘の賢子はとうとう、高貴な男の心を射止めることに成功します。相手は三宮敦良、5歳児。おもしれー顔の女として気に入られてしまいます。さすがの賢子も生意気ショタからの猛烈なアプローチには困惑させられます。そんななか、賢子と小式部(和泉式部の娘)が一宮敦康親王の館に招かれます。ところが、案内してくれた女房の血まみれになった死体を賢子と三宮がみつけてしまいます。さらに、小式部が確認に行くと死体が消失していたという怪現象まで起こります。やがて、三宮と小式部が行方不明になるという大事件に発展します。
怪事件や政治闘争とともに、この作品の軸になるのはあまりにも優秀すぎる母親と娘の関係です。紫式部清少納言などおそろしい母を持つ娘たちが登場しますが、小式部に関しては悩みは母の優秀さだけではありません。文名も高いけれどそれ以上に浮名を馳せている母は、娘にとってはこのうえなく厄介な存在でしょう。賢子も仲立ちをして小式部と和泉式部が関係を修復していく過程が、3巻の大きなみどころです。
以下、作品の結末に触れます。

わたしはこのシリーズの方向性を見誤っていて、2巻までは主要テーマは男性権力との戦いだと思っていました。でも、この作品の軸が母娘関係であることを考えると、完結編の方向は自然です。最終的に作品は、最強の母親、グレートマザーたる彰子の愛による支配への反逆という決着をみせます。
賢子は男関係の決断も下します。が、それ以上に大切なのは女子同士の関係です。賢子と小式部が和泉式部に向かって自分たちは特別な関係であると宣言するのをラストシーンとしたのは、このシリーズらしい結末でした。